|
健康のための運動にはウェイトトレーニングもランニングも両方必要で、組み合わせた方が効果が高いという研究。身体活動とひとくくりにするが、フィットネスには有酸素性と無酸素性の二種類があって、片方だけをトレーニングしても有効ではないという経験的な考え方に根拠を与えるもの。いわゆる「スポーツ心臓」は有害という考えを持っている臨床家は未だに存在するようだが、適応状態を考えればやはりスポーツは心機能にも有益であることが根拠づけられている。
|
|
ハーヴァード大学医学部のマイケル･レル博士らのグループが、MRIを用いてトライアスロン選手の心臓適応状態をこの種の研究としてははじめて検討した。26人のプロトライアスリート(平均27.9歳)と27人の男性対照群(平均27.3歳)を比較して検討した。対照群は余暇的に身体を動かしてはいるが、週3時間を超える運動は行っていない。被験者のトライアスリートは全国大会及び国際大会レベルの選手であって、少なくとも6年間の継続的なトレーニングを行ってきている。
|
|
撮影された心MRI画像によれば、対照群に比べて、トライアスリートの心臓ではより大きな左房およびより大きな左室･右室が観測された。またトライアスリートの左右の心室はより大きな心筋と隔壁の肥厚が見られた。
|
|
競技選手に於いてトレーニングによる適応からこれらの心肥大が見られることと、心臓発作による突然死がしばしば導かれるような病的な心筋症による心肥大とは区別されなくてはならないことを研究者らは指摘している。病的な心筋症に於いては、心臓の四室と隔壁の肥厚は左右非対称に起こるため、心ポンプ機能が有効に作用しないことが問題になるのだ。
|
|
エリート競技選手に見られる心の適応状態は左右良質の心筋量および心臓隔壁、さらには心拡張機能のバランスの取れた増加に特徴付けられており、これらの適応状態はまさに、有酸素性及び無酸素性トレーニングを組み合わせて行われるようなトライアスロン競技のトレーニングによる適応状態によって引きおこされると研究者らは指摘している。
|
|
トライアスロン競技に於いて、スイミングやランニングは有酸素的なフィットネスを向上させるように貢献する。無酸素性トレーニングの代表的なものはウェイトリフティングなどの抗抵抗性トレーニングであるが、トライアスロン競技に於いてはサイクリングの鍛錬が、比較的無酸素性フィットネス(もちろん、有酸素性フィットネスを含めてであるが)を高めることに寄与しているようだ。有酸素性及び無酸素性いずれのフィットのスに集中して過剰なトレーニングを行っても、心の適応はそれぞれに起こってくるが、過剰な有酸素性トレーニングは場合によっては突然の心停止イベントに関連することもあると考えられている。
|
|
しかしながら、本研究で明らかになったように、トライアスリートのように有酸素性及び無酸素性フィットネス双方に働きかけるようなトレーニングの場合、突然の心停止を導くような状態にはいたらないだろうことが想定される。トライアスリートの安静時心拍数は対照群に比較して17%低かったことからも、心ポンプ機能が高く『経済性の高い』、すなわち一回拍出量の高い高機能な心臓が適応によってもたらされていることが考えられる。
|
|
すなわち、トライアスリートの心臓は、同じ運動をする際に、より少ない努力で、より高いパーフォーマンスを発揮するように適応しているのである。
|
