<肥満治療に低GI食を推進すべき(賛成派)
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ポーラックらは、低GI食品による減量を推進しています(1)。今日、低脂肪ダイエットが推奨されていますが、彼らは、低脂肪ダイエットでたくさん摂取する炭水化物について、そのGI値が重要であると述べています。低脂肪ダイエットは、短期的には効果がある(19-21;ポーラックら(1)の引用文献番号、以下同様)と言われている一方で、長期的な効果については不明(22-24)です。その理由として、ポーラックらは、体重減少後の空腹感や安静時エネルギー消費量の低下などによってリバウンドしやすい(28-30)ことを挙げ、低GI食がそれを解消すると考えています。GIの違いを検討した短期的な臨床試験では、高GI食を摂取したグループと低GI食を摂取したグループ間で代謝と食欲に差が生じ、低GI食の方が減量に有効であることが示されています(32-35)。長期的な研究結果はありませんが、ポーラックらは、短期的な研究から得られている生理学的な効果に基づくと、長期に渡っても有効であろうと述べています。
代謝機能の差というのは、高GI食の場合、血中インシュリン濃度が急激に上昇しグルコースが急速に吸収される(10)だけでなく、食物が消化吸収された後もインシュリン濃度がなかなか下がらず、血中グルコース濃度の低下が生じます(36,37)。ストレスホルモンが分泌され正常血糖値は保たれますが、インシュリン抵抗性とたんぱく質分解を招くことになります。また、高血糖負荷**食を摂取していると、安静時エネルギー消費量が低血糖負荷**食よりも減少するという研究結果(41)や、高GI食よりも低GI食で体脂肪が減少したという報告(42)もあります。
食欲の変化とは、低GI食では満足感が増すため摂取量を抑えることができる(43,44)といいます。高GI食を摂取し消化吸収した後はグルコース濃度の低下のため、低GI食の摂取後よりも食欲が湧くようです(10、36)。GIが食後の空腹感と食物摂取に直接関連することを示した研究も発表されています(17,43,44)。
低GI食品の有効性はこれだけでなく、心臓疾患のリスクを軽減するといいます。38〜63歳の女性を対象にした10年間のコホート研究の結果、GI値の高い食品を摂取していた人の方が低GIの食品を摂取していた人よりも心臓疾患リスクが高いことがわかりました(72)。また、高GI食よりも低GI食で2型糖尿病リスクが下がる可能性も示されています(87-90)。
低GI食の有効性については、複数の食品を同時に摂取した場合のGI値の効果についても疑問視されてきました。ポーラックらは、問題はデータを解析する方法論だと指摘しています。低GI食の効果がないと結論づけられた研究について方法論を変えて分析し直すと、逆に低GI食の効果を支持する結果が得られるものもあるというのです(101、102)。確かに、複数の食品を摂取した場合GI値は変化しますが、日常摂取されている食品において、相互作用によってGI値の高低を極端に変化させるものはありません(103-106)。臨床場面におけるGIの有効性を証明するには長期的な介入試験が必要ですが、短期的な研究が複数行われていて、その結果は有効であることが示されています(73-75)。低GI食は実施するのも容易(111,112)であり、ポーラックらは以上の結果から、肥満治療において2型糖尿病と心臓疾患の予防に低GI食が有効であると主張しています。
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<肥満治療に低GI食を推進すべきでない(反対派)>
一方、ラーベンは、肥満患者における長期的な体重減少に、低GI食が高GI食よりも有効であるとは証明されていないと主張しています(2)。彼は、低GI食が食欲(満腹感)と体重減少に与える影響について、2002年6月までに出版された論文(短期(一日未満)研究31編、長期(6日以上6ヶ月以下)研究20編、いずれもヒト介入試験)を分析しました。ヒト介入試験の他に、単糖類摂取時の熱産性についての研究、疫学研究、動物実験などもありますが、それぞれ、単糖類と通常の食事は異なる、疫学データは自己申告による過誤が生じやすく実験的な厳密性が得にくい、動物実験の結果がヒトに当てはまるかは不明であるという理由から、分析対象としませんでした。短期のヒト介入試験のうち、高GI食よりも低GI食が満腹感を増大させたものは15編、残りの16編では差が見られませんでした。この16編のうち2編は低GI食よりも高GI食で満腹感が増大(17,2;ラーベン(2)の引用文献番号、以下同様)、1編は血糖値と満腹感に相関が見られた(16)という結果でした。ラーベンの総説以前に、低GI食についての総説が2編(2,3)発表されていますが、ともに低GI食と食欲の関連に肯定的な結論を導いています。しかし、いずれもラーベンが分析した論文の45〜75%しか取り上げていません。ラーベンは自分の分析結果から、低GI食が高GI食よりも満腹感を与えるというには証拠が充分でないと述べています。
低GI食と体重減少との関連については、ラーベンは20編の長期研究を取り上げています。しかし、どの研究も、GIの影響を知る上で最適な研究(エネルギー摂取量と体重変動に自由度を与え、低GI食と高GI食における食事の要素を、GI以外は同等にする=「自由摂取研究(Ad libitum studies)」)ではありません。分析した20編のうち13編は体重維持を目的にした等エネルギーの食事による研究(25,26,59-69)、5編はエネルギー摂取量を制限した食事による研究(27-30)、残りの2編は「自由摂取研究」ですが、どちらも低GI食と高GI食の食物繊維量に差がありました(9,31)。これら20編を分析した結果、低GI食で体重減少の見られたものは4編、高GI食で減少のみられたものが2編、有意差のみられなかったもの14編でした。体重減少に、GIおよび糖質の種類(単糖、多糖)の影響はほとんど見られず、従って低GI食が減量に有効であることは断定できないと、ラーベンは結論付けています。
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